セグメンテーションは、STP分析の最初のステップに位置づけられます。自社の製品やサービスを最も効果的に訴求できるターゲット市場を特定するために、重要な第一歩と言えるでしょう。
この記事では、STP分析を活用したセグメンテーションについて、わかりやすく解説します。
STP分析とは
マーケティング戦略の策定に欠かせない手法、STP分析。セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字をとって、「STP分析」と名付けられました。このステップを経ることで、製品やサービスを最適な顧客に訴求し、成功に導く取り組みを明確化できます。
STP分析は「近代マーケティングの父」や「マーケティングの神様」と評される、フィリップ・コトラーによって提唱されました。コトラーの貢献により、企業は市場を細分化(セグメンテーション)し、ターゲットを特定(ターゲティング)し、製品を適切に位置づける(ポジショニング)ことで、競争優位性を追求する可能性を広げたのです。
セグメンテーション
STP分析の最初のステップ「セグメンテーション」は、市場を特定の属性に基づいて細分化することを指します。セグメンテーションにより、異なるニーズや行動パターンを持つ顧客グループを明確に識別できるのです。
主な細分化の方法としては、地理的属性、人口統計的属性、行動的属性、心理的属性などがあります。
最も効果的に訴求できるターゲット市場を特定する重要な第一歩が、セグメンテーションと言えるでしょう。そのため、STP分析における次のステップ「ターゲティング」と「ポジショニング」にとっても基礎となる位置づけがされます。
ターゲティング
STP分析の第二のステップ「ターゲティング」は、特定の市場や顧客群を定めるプロセスを指します。
ターゲティングとは、セグメンテーションによって細分化された市場の中から、自社の製品やサービスが最も効果的に訴求できると考えられる市場や顧客群を特定していく作業です。
ターゲティングを行うことで、よりスムーズかつ正確に顧客ニーズに対応するマーケティング戦略を策定できる可能性が高くなります。これは顧客が明示的に表現している顕在的ニーズだけでなく、潜在的ニーズも含みます。
ポジショニング
STP分析の最終段階「ポジショニング」は、製品やサービスが市場内でどのような位置を占めるべきかを明確にするプロセスです。顧客が製品やサービスを購入する際の決定要因と、密接に関連しています。
つまりポジショニングは、自社の製品やサービスが提供する価値を顧客に認知してもらうための重要な役割を果たすのです。
ポジショニングにより、競争市場での自社製品やサービスの位置づけが明確になり、競争優位性を持つことが可能になります。
STP分析の目的・効果
次に、STP分析を行う目的とその効果について解説をします。マーケティング戦略の策定における、STP分析の重要性をより深く理解できるでしょう。
顧客やニーズを整理できる
STP分析におけるセグメンテーションとは、特定の属性に基づいて市場を細分化するプロセスです。セグメンテーションを行うことで、異なるニーズや行動パターンを持つ顧客群を明確に識別できます。
自社製品の強みを明確にできる
ターゲティングを行うことで、自社製品の強みや競争優位性を明確にしましょう。最も効果的に訴求できる、と考えられる市場や顧客群を特定できます。
他社との差別化ポイントを把握できる
ポジショニングとは、自社の製品やサービスが市場でどのような位置を占めるべきなのかを明確にするプロセスです。ポジショニングにより、他社との差別化ポイントを把握し、競争優位性を持つことが可能となるでしょう。
例えば、ある企業が独自の技術を用いた製品を提供している場合、その企業は技術力を差別化ポイントとして位置づけることができます。
プロモーション戦略などの土台ができる
STP分析全体を通じて、自社製品のマーケティング戦略全体を策定する土台を作り上げられます。製品開発、価格設定、プロモーション、流通まで、マーケティングのあらゆる側面に影響を与えます。
STP分析を実施することで、自社製品の価値を最大限に引き出し、顧客に対する訴求力を高めることが可能となるのです。
セグメンテーションのやり方
セグメンテーションは、市場を特定の基準や「変数」に基づいて細分化するプロセスです。顧客の行動、ニーズ、態度、または他の特定の特性に基づいて、変数は定義されます。
変数を定義することで、セグメンテーションの根拠が明確化され、より具体的で効果的なマーケティング戦略を策定することが可能となります。
地理的変数(ジオグラフィック変数)
顧客の地理的な属性に基づいて市場を細分化するセグメンテーションを「ジオグラフィック変数」と言います。国、地域、都市部、郊外、田舎などのキーワードで現されます。
ジオグラフィック変数は、特定の国・地方での製品の需要や特有の消費者行動を理解するために使用され、地域の特性に合わせたマーケティング戦略を策定できます。
人口動態変数(デモグラフィック変数)
年齢、性別、収入、教育レベル、職業などの顧客の人口統計学的特性に基づいて市場を細分化するセグメンテーションを「デモグラフィック変数」と言います。
デモグラフィック変数の情報は、公的な統計データ、調査データ、または顧客から申告された情報を元にするため、容易な測定・抽出が可能です。また具体的かつ直感的でもあるため、マーケティング担当者が理解しやすく、分析に適用しやすいという特徴があります。
心理的変数(サイコグラフィック変数)
顧客のライフスタイルや価値観、性格特性などを基に市場を細分化するセグメンテーションを「サイコグラフィック変数」と言います。
サイコグラフィック変数を用いることで、顧客が何を考え、何を感じ、何を望んでいるかを理解できるでしょう。顧客心理に基づいたマーケティング戦略を策定することで、顧客満足度の向上やブランドロイヤルティの強化につながります。
行動変数(ビヘイビアル)
顧客の製品やサービスに対する行動や態度を基に市場を細分化することを「行動変数」と言います。これにより、顧客の製品使用パターンやブランドへの忠誠度を理解し、それを基に製品開発やマーケティング戦略を策定できます。
行動変数は、マーケティング活動全体に影響を与え、詳細な戦略策定に役立ちます。
セグメンテーションを行う上での注意点
セグメンテーションは、市場を理解し、顧客に対してより効果的なマーケティング戦略を策定するための重要な手段です。しかし、その実施にあたっていくつか注意点があります。
ターゲティングとの関連性を考慮する
セグメンテーションを行う際の重要な注意点は、次のステップである「ターゲティング」への影響を考慮することが挙げられます。
STP分析の手順・流れにおいて、セグメンテーションの次に行うのがターゲティングです。したがって、セグメンテーションを進める際には、その結果がターゲティングにどのように影響を与えるかを常に意識することが重要です。
市場を細分化し過ぎない
セグメンテーションを行う際のもうひとつの重要な注意点は、「市場の過度な細分化」を避けることです。
市場を細分化することは重要ですが、あまりにも多く細かなセグメントを作成しすぎると、各セグメントに適切なリソースを割り当てることが難しくなります。
優れた分析結果を得るためには、バランスの取れたセグメンテーションが求められます。このバランス感覚は、企業が競争優位性を獲得し、市場で成功するための重要な要素です。
セグメンテーションを活用した成功事例
セグメンテーションをより深く理解するために、理論だけではなく具体的な事例から有効性を確認することも重要です。実際のビジネスシーンでセグメンテーションがどのように活用されたのか、具体的な事例を紹介します。
ホンダ
「ホンダ」の「スーパーカブ」の事例は、サイコグラフィック変数を巧みに活用した例と言えます。
ホンダがアメリカ市場に参入した当時、「バイクと言えばハーレー」という常識がありました。これは、大排気量でワフルなバイクを好むというアメリカ人のライフスタイルや価値観を反映したものです。
しかしホンダはこの常識にとらわれず、真逆のイメージ戦略を打ち出し成功しました。ハーレーとは対照的な軽量で燃費の良い「スーパーカブ」を市場に投入。環境意識の高い消費者や、日常的な移動手段としてバイクを使用する消費者という新たな顧客層をターゲットにしたのです。
パナソニック
パナソニックの「Let’s Note」の事例は、「ビヘイビアル変数」を巧みに活用した例と言えます。
パナソニックは、法人向けノートPCのマーケティング戦略として「外回りの営業担当者」という特定の行動パターンを持つ顧客層に焦点を絞り、セグメンテーションしました。外回りの営業が移動中でも効率的に業務を行えるような製品特徴(軽量、バッテリー持続時間が長い、頑丈な設計など)を「Let’s Note」に反映させたのです。
この特性は新たな市場ジャンルを生み出しました。他メーカーからも類似商品が数々出現しましたが、パナソニックはブランドポジショニングを確立し、競争優位性を長く保つことになりました。
JINS
JINSの「ブルーライトカット用メガネ」の事例は、デモグラフィック変数を効果的に活用した例と言えます。
JINSは視力が悪くなくても「長時間のPCスクリーン使用による、目の疲れを軽減するためにブルーライトカット用メガネを必要とする」というニーズに着目しました。年齢や性別といった従来のデモグラフィック変数を超えて、特定のライフスタイルや行動パターン(=長時間のスクリーン使用)を持つ顧客層をターゲットにしたのです。
JINSは新たな顧客ニーズを捉え、それに対応した製品を提供することで市場で成功を収めました。この事例では、顧客の具体的なニーズに対応した製品開発が、市場での成功にどれほど影響を与えるのかを理解できるでしょう。
スターバックス
スターバックスは、単に高品質のコーヒーを提供するだけでなく、その空間自体を売り物とし、顧客が店内での過ごし方を自由に選べるという新たな価値を提供しました。
これは、顧客のライフスタイルや価値観、つまり「サイコグラフィック変数」に焦点を当てた戦略です。顧客がリラックスしたい、仕事をしたい、友人と会話したい……など、その時々の心理的ニーズや状況に応じてスターバックスの空間を利用できるようにしたのです。
スターバックスは顧客の心理的動機を理解し、それに対応したサービスを提供することで市場で成功を収めました。このことは、顧客の心理的動機や価値観を理解し、それに基づいたマーケティング戦略を策定する重要性を示す事例と言えるでしょう。
セグメンテーションの次はターゲティングを行う
STP分析において、「セグメンテーション」の次に行うのが「ターゲティング」です。ターゲティングは、セグメンテーションによって細分化された市場の中から、自社がターゲットに据える市場を選ぶプロセスとなります。
ここで重要なのは、「セグメンテーション」と「ターゲティング」は一連の流れとして捉える、ということです。
「セグメンテーション」と「ターゲティング」の順番にこだわりすぎない
「セグメンテーション」と「ターゲティング」は、厳密に順序を守らなくてはいけない、という決まりはありません。
現代社会や市場の状況は、常に変化していきます。大切なのは、それぞれがどんな役割を果たし、どのようにビジネス戦略に貢献できるかを理解することです。
市場環境や企業の戦略によっては、ターゲティングを先に行い、その結果を基にセグメンテーションを行うこともあります。また、両者は相互に影響を与え合い、反復的に行うことで、より精度の高いマーケティング戦略を策定することが可能となるのです。
ターゲティングの次はポジショニング
「ターゲティング」の次は「ポジショニング」とSTP分析は進んで行きます。ポジショニングは自社の製品やサービスが市場の中でどのような位置を占めているか・占めるべきかを明確にするプロセスでので、前提条件として「自社の製品やサービスが現在どのような位置にあるのかを理解している」事が必要です。
セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングでターゲット市場を選んでも、自社の製品やサービスがその市場の中でどのような位置を占めているか・占めるべきなのかが明確でなければ、それらの努力は意味をなさないものとなり、STP分析は方向性を見失なうでしょう。
STP分析を行う際には、まず自社の製品やサービスが現在どのような位置にあるのかをしっかりと理解し、その上で戦略を策定することが重要となります。